教材マスターの集いMAX2023のブログ集
2023年12月19日 火曜日 / カテゴリ:News & Topics 家庭の療育体験談 教室ブログ 研修会に関する情報
先日12月2日(土)、たすくで年に1回のスペシャル行事
教材マスターの集いMAX2023が開催されました。
「家族と協働する」をかたちにする実践発表会です。
今年は、第1部で個別療育の各教室から、第2部で自立の学校の各教室から
第3部でTRYFULLからの実践発表が行われました。
その中で、いろんな教室での教材マスターの集いMAXを終えてのブログが書かれています。
そちらを紹介します。
個別療育 鎌倉御成教室
MAXの発表を終えて♪
自立の学校 中野坂上教室
【ご家族との協働】教材マスターMAX2023を振り返って
個別療育 横浜教室
Simply go onが支えるこどもの育ち
自立の学校 鎌倉大船教室
教材マスターMAX 自立の学校大船の実践
個別療育 豊橋教室
ご家族と協働する 〜教材マスターの集いMAX2023
重度障がい児でも個にあった指導を毎日続けていくことで, 出来ることを増やせる
2013年11月28日 木曜日 / カテゴリ:家庭の療育体験談
お子様の紹介
2012年5月よりたすくに通っております,都内特別支援学校に通う小学5年生です。
うちの子は出産トラブルがあり,身体に麻痺があります。その為、彼の持つ困難さの原因は,麻痺と発達障害の境界線がわかりません。
麻痺由来の場合には,動かしたくても動かない,頑張っても出来ないということも考えられるので,何を始めるにも,「超」スモールステップで取り組みました。
今回は,その中の「はさみ」について,1回切りが出来るようになった6歳以降をご紹介したいと思います。
システム理論
J☆sKepsTMが1.7点なので,静態的システムの中で取り組んでいます。ちょっとした変化で不安に陥りやすいので,学びやすいように丁寧に環境を整えて指導しています。
彼が取り組む機能的な目標
J☆sKepsTM 2点以下の三種の神器,コミュニケーション・スケジュール・タスクオーガナイゼーションが機能的な目標です。
Perception first cycle(知覚サイクル)
Perception first cycleの中でも,まず「見ること」が困難です。両眼視が未だ不十分です。見る・見続ける課題として,はさみはかなり有効かつ,指導する側から見ても判りやすい教材でした。
1. 線を見る,見続ける(Perception)
2. 線の通りに切ろう!(運動企画)
3. 実際に切る(Action)
4. うまく切れた(または,切れなかった)
・・・というように,はさみを握ると紙が切れる→即時フィードバックが得られる→結果も目に見える・ほめられる。グルグルとサイクルしていきます。最初の「見る」さえうまくいけば,です。
たすくに通う前
写真 左【2009年(6歳)】
過敏のため,なるべく触りたくないというふうなはさみの持ち方です。
写真 右【2011年(8歳)】
はさみの持ち手は少し良くなってますが,紙をしっかり持てていません。
机上課題としての指導開始はこの頃からです。家庭で自己流で取り組んでいました。
折り紙を半分に切って,マジックで線を引き,線上を切れるかを見ましたが,脇が開いて背中が丸まっているために,はさみを横に構えるため,縦方向に切ることが出来ませんでした。運動面の困難さも影響しているように見えました。
療育の実際
2012年5月からたすくに通い始めましたが,そこからようやく指導のポイントが見えてきました。
まず机と椅子の高さが合っているか?足はしっかり床もしくは足置きに置いているか?手の位置を机上に固定し,安定した形を保って作業することが大事だと教わりました。三種の神器のタスクオーガナイゼーションの視点です。当時,よく見ようとすると手の位置が高くなり,その結果,右肘が前方に出て手首を曲げ,左肘は机から落ちていました。姿勢が斜めに崩れ,猫背になることで,視線も中心を見れずに右目だけで焦点をあてて見ていました。両目でよく見るためにも(←Perceptionです),姿勢を正すことは療育の基本,スタートラインだと思いました。
また,正しい姿勢を保持するための体幹のトレーニングも学びの基地や,自宅でも実践しています。身体の中心軸を意識する運動や,バランス運動の他,普段も,リュックの荷物を重くして,しっかり足の裏を使って歩く等,机上課題を成立させるためには,身体作りの視点もなければ始まらないということを教えていただきました。
その他にも,照明や気温,湿度,衣服,周囲が静か等,環境にも気を配りました。 切る時にハサミを倒しがちなので,本人の目線を追って見ると,はさみの影に重なって切り取り線が見えづらくなっていました。手元になるべく影が出ないように照明の当て方を工夫しました。
気温や湿度は,ハサミの課題に限らないことですが,手が汗ばんでしまうと,はさみが持ちづらくなったりしますし,そうでなくても暑いと集中力が低下するので,室内の温度・湿度にも気を使いました。
夏場は特に体力の消耗が激しくなります。学校から帰ってきて疲れていないか等,本人から「今日は疲れています」と訴えることが出来ないので,体調面を観察し考慮したスケジュールに変えることもしていました。
衣服も,半袖は問題ないですが,長袖の時は袖周りにボタンや飾りがついていたり,袖が長くて手首より下がってきたりすると,やはり集中できないので,動きやすく作業しやすい衣服かどうかもチェックしていました。
周囲が静かというのは,紙を切る際に,音のフィードバック(ジョキジョキ)を得ることを考慮したものです。他にも,目移りするような気になる音やものは出来るだけ隠すようにしました。
はさみのカスタマイズ
はさみは「こどもチャレンジ」のものを使用してます。持つところが太めで,材質の感触も冷たくなく固すぎず,ちょうど良いと思いました。ばねばさみも,持った感じはけっこう良かったものの,刃先のほうにガードがついていて,視覚的にそこが気になってしまいました。
持ち方に関しては,親指が入りすぎていたので,入り過ぎないよう(親指の第一関節で止まるよう),はさみに加工を加えました。最初は包帯を巻きましたが,巻き終わりの糸が気になりすぎてダメでした。感触の好き嫌いもあって,包帯ではなく今はティッシュペーパーを巻いています。
親指以外の指は中指と薬指を入れると,人差し指がどうしても突っ張ってしまい安定しないので,人差し指と中指を入れたほうがいいか,今はそこが試行錯誤している点です。先ほどグループワークの中で,手首の位置をまっすぐ意識して固定することで,比較的(指が開かずに)安定するんじゃないかというアドバイスをいただいたので,今後参考にしたいと思いました。
あと,右側の写真は,紙を長めに切り進める時に,毎回途中からハサミが倒れて不安定になっていましたが,これも感覚から来る問題でした。肌の過敏が強いので,切れた紙が手の甲に触れるのが嫌で,その感触をよけようとして,手の構えが倒れたり,途中で切るのをやめてしまったりといったことが起きていました。自分でうまく切れ端をよける方法を身につけるなど,この部分も現在,試行錯誤中です。
出来るようになったこと
たすくで療育を受けて1年経ちました。はさみを使うとき、脇を締めて,背筋を伸ばして構えられるようになりました。 姿勢が整い,手を正面に置くことで視線が定まり,作業しやすい体勢が取れるようになっています。
自己流で指導している時は,こういった知識がなく,物体(objects)があり、実際の運動(action)をさせることしか思いつきませんでしたが,actionするにも,その前に「正しく対象物を捉える,見る」が出来なければ,その後の判断(judgment)も運動企画も出来ないわけで,自分で考えて動くようにはなっていきません。
将来,彼が自分で考えて動けるようになるためにも,このPerception firstcycleをしっかりイメージして指導していきたいと思います。
療育で気づいた点と今後の課題
現在は静態的システムの中で,環境を整えて,できるだけ型の中で学習していますが,その中でも机上課題で学んだ内容を,生活の中に反映させるようにしています。例えば,はさみの場合は,焼きのりを切ってもらう,食品の袋を切ってもらうなどしてもらって,「ありがとう」というと,本人も嬉しそうだったり,得意げな顔をしていたりするので,モチベーションという意味でもそういった取り組みをしています。
本人にやる気がないと始まらないので,やる気を引き出し,継続させるために好子の使い方など,モチベーションへの配慮や工夫が必要だと思いました。これも目下の課題となっています。先ほどグループワークの中でアイディアをいただきました。はさみの課題であれば,線を切って組み立てると風船のように遊べるというものを教えてもらいました。子どもですので,お勉強するだけが目的ではなく,「楽しみがその後にある課題」自体をモチベーションに繋げられるというのはいいアイデアだなと思いました。
また、彼は,失敗すると落ち込みやすく,次を怖がってしまう特性もあります。自ら失敗から学ぶことは難しいので,出来る限り失敗体験をしなくて済むよう,新しい課題にチャレンジする時は,設定が適切かシュミレーションし,念入りに検証してから始め,課題の難度が高いと感じれば設定の見直しをしたり,支援の入れ方,減らし方,声かけのタイミング等を,毎回検証し続けています。
本人から「ここがいやだ」などの具体的訴えがないので,本人の目線になって同じものを見る,聞く,感じるなど,支援者には想像力も必要です。重度障害児の場合,コミュニケーションをとることが難しいために,ついつい支援者側で勝手に進めてしまったり,毎回過度にプロンプト(支援)して,出来たねーと,自分が満足して終わり!みたいなことがありがちですが,うまく表現や表出が出来ないだけで,本人にもプライドがありますし,こうしたいという気持ちもあるので,過度にプロンプトしてしまって,成長とか自主性の芽を摘むことにならないように…ということを常に心がけてこれからも,「楽しく」療育していこうと思います。
質疑応答
Q. 感覚過敏なのに,「見る・見続ける」課題で,はさみを取り上げたのですか?
A. はさみはとても「わかりやすい」教材だなと思ってです。ipodなどだと,自分の指で触って,何も介さずにフィードバックがあって,とてもわかりやすい。はさみも同様で,自分の操作「切る」ところが見える,切ったものが見える,切ったところに線が引いてあれば,上手に切れたかフィードバックが見える。そういう「わかりやすさ」が良かったです。
Q. 支援グッズはどのくらいの頻度で見直したり作り替えたりしていますか?
A. 彼の場合はわかりやすく「飽きる」んです。でも捨てることはありません。気に入ったおもちゃなどでも,一度飽きて,半年ぶりにもう一回出してみるとまた夢中になって遊ぶということもあります。それに継続してやっていないと,忘れた りできなくなったりするので,しばらく置いておいて,「またこれやってみる?」と出してくることもあります。
やる気を失っていた息子が、姿勢を整えることで、自尊心を取り戻した
2013年11月28日 木曜日 / カテゴリ:家庭の療育体験談
じーくんの紹介
息子は,地域の小学校の特別支援級の4年生です。療育を始めて2年になりますが,この2年間のお話をお届けしたいと思います。
療育を始めた時の様子
療育を始めたころ、じーくんにはこんな様子でした。
・姿勢保持が難しく,椅子に座り続けることが困難。(前庭覚,固有受容覚が低反応)
・座るとき,背もたれに寄りかかり,左手は下に落ちていた。
・見本を注視するのが難しい。
・不全感があり(これが,じーくんのポイントになります),コントロールの放棄が難しい。
・J☆sKepsTM2.4点。学習態勢・セルフマネージメント・表出性のコミュニケーションに注目させてスタート。
システム理論
J☆sKepsTMが2.4点なので,本来ならば静態的システムの中でゴールをきちんと決めてあげて,わかりやすく手取り・足取りという環境が望ましいところではあるのですが,この頃,じーくんは発達がとてもでこぼこで,学校では,でこぼこの中でも「できるところ」を見られることがとても多かったです。ですので,流動的システムの中で,目標や環境が常に変わってしまう,難しい環境の中で過ごしていて,できることと求められることのちぐはぐさから,本人はこの時とても苦しんでいたのではないかと振り返ります。
取り組む目標としては,J☆sKepsTM2.4点ですので,「三種の神器」,「アカデミック」,「手を育てる」に注目してきました。
Perception first cycle(知覚サイクル)で考えていくと,まず,座ることが難しかったです。姿勢が崩れてしまうために,「見る」「見つづける」ことが苦手でした。ですので,ここで姿勢保持のトレーニングを始めました。
次にやっぱり見本などを,見つづけることができず,「できないな,なんでかな」と少しイライラが募ってきます。
そして,根がまじめな子で,やろうとはしますが,字が大きくなってしまったり,枠もあってないような字を書いていたりしました。だんだんいやになって,「これならもうこの課題は,おれは,おれの意思で,やらないんだ」という発想になってしまい,ひどい時には鉛筆を投げてしまったり,私に攻撃してきたりすることも多かったです。
サイクルが回っていないことはないのですが,不自然なかたちで,正しいサイクルが回ってはいないなというかんじでした。
療育の実際
バランスボール
Perception(知覚)を支える基礎力となる「姿勢保持」のための身体づくりに取り組みました。
1.ボールでジャンプ
2.ボールに座ってバランスをとる
3.ボールに座って身体を固める
4.ボールを使ってひこうき
5.ボールになろう
サイクルの悪循環を止めるために,家庭でも療育でも,これらの身体づくりに取り組みました。
家で パソコンに向かっている様子ですが,バランスボールを椅子代わりにしています。この時,パソコンで見ているのはYoutubeなのですが,本人は注視しているなんていうつもりは全くなく,バランスボールに乗っています。
【左の写真:療育を始めたころ】
完全にお尻が落ち,手が伸びきってしまい,このままダーッと崩れてしまいそうです。
【右の写真:センター南に週に1回は通っている現在の様子】
身体がきちんと固まっていますし,体幹が鍛えられてきて,自分でバランスを取ろうとしています。「脇閉めてていいね」など声かけをしてモチベーションもアップさせつつ行っています。
図形書き
療育のほうでは,図形書きに取り組みました。ステップとして、
1.椅子を厳選しました。
2.道具を厳選しました。(三角シャープペン→ステッドラー→シャープペン+ぷにゅグリップ)
3.左手を添える・シャープペンを持つ・書くことから始めました。(1つの見本を見て,書く)
4.実行機能に配慮して,すべきことを約束しました。(足を着く→左手を置く→シャープペンの持ち方)
5.サイズを調整する為に,目印として上に線を引きます。
道具の変遷
三角シャープペンは,じーくんの場合は,どうしても持つと親指がずり上がってきちんと持てませんでした。これだと 少し細かったようです。
次にステッドラーシャープペンは見た目からかっこよくて,すぐに好きになりました。持ってみると,グリップの部分が太くて持ちやすく,三角の部分にきちんと指を合わせて置くことができました。「おれでもこれだったら持てる,書けるぞ!」という様子を見て,私も,道具選びの大切さを学びました。ただ,これの唯一の難点が,太いので小さい字が書けないんです。
それで,また三角シャープペンに戻しましたが,じーくんにはやっぱりうまく持てませんでした。
そこで,キャンパスペンシルに,ぷにゅグリップをつけると,指も合わせやすく,感触もよいということで,我が家ではヒットしました。
このように何段階も経て,道具を厳選していきました。
さきほど「見本を注視」ということを言いましたが,右側に取り出してあるのは,単語帳です。図形の書き順を書いて,一番注視しやすいところに見本として置きました。
取り組む前のお約束
また,私が彼と触れ合うときのエチケットとして,「お約束」ということがあります。この図形を書くときの場合は, 1.足を着く 2.左手を置く 3.シャープペンの持ち方(いい持ち方)を確認します。そうやって,すべきことを明確にすると,どうやら身体への指示が出しやすいようです。
右上の写真(以前の写真)を見ていただくと,左手が落ち,お尻がずれ,背もたれに寄っかかり,きちんと座れていませんでした。
出来るようになったこと
じーくんが出来るようになったことは、
・姿勢保持をして椅子に座り、書きやすい姿勢で取り組めるようになった。
・見本を中止できるようになった
・文字をそろえて書くことが出来るようになった。
・Perception-first Cycle(知覚サイクル)が回るようになり、不全感がなくなった。
書字の変化
【2011年の書字】
一番左の写真が,2011年のときの字です。枠はあってないようなものです。字を書くのが嫌いなので,「TBS」とか「日
本テレビ」とか,本人のモチベーションが上がる言葉を書いていました。
図形は,このとおり怒りが伝わってくるような書き方です。
【2012年の書字】
ステッドラーを使い始めて,だんだん書くことに苦手感が無くなってきたころです。この時に書いているのはまだ,「テツ&トモ」など,本人の好きな単語や将来の夢などを選んでいます。
図形は,上に線を引いてあって,「この中に書くんだ」と,枠がなんとなく捉えられるようになってきました。
【2013年の書字】
もう好きな字を書いているわけではなく,獲得していくべき実用的な言葉,こちらが提示した言葉も書けるようになってきました。
図形はだんだんそろってきて,「何個書くか」というお約束もできるようになりました。
まとめ
【自己意識と社会性】に立ち戻ってみると,Perceptionでは,姿勢が整ってきたので,注目ができるようになってきて,枠や見本がわかるようになります。「わかったぞ,モデルと同じに書くぞ」と本人が思って書くと,母からも「あ,できたね!じーくんかっこいいね!見本と同じじゃん!」と言われて,とても嬉しくなってきます。「じーくん今日は絶好調だね!」という言葉が一番好きみたいです。
最後に,「見て,見本と同じじゃない?書き順もすごくよかったよ!」と言いながら振り返ります。
こうして,最初はでこぼこしていたサイクルが,最近ではきちんと望ましいかたちで回るようになってきて,結果,不全感がなくなってきたのかなと思います。
今は,ステップアップして,ワーキング・メモリを育てる課題に取り組んでいます。図形を見て,頭に留め置いて,書こうとする。見本は近くにはなく,ワーキング・メモリで留めてやっています。まだなかなか大変で,苦しむ場面も多いのですが,そこでまた,このサイクルの図に立ち戻り,「どこがうまくいっていないのかな」「それをどうしていけばいいのかな」と考えながら課題に取り組んでいっています。
「気持ちが下がる(不全が募る)と,やる気が起きない」という現象にもう捕われることなく,その根本原因はどこなんだと探すと,必ずというほど身体のことが出てきて,やはり身体の問題は切り離せないことなのかなと感じます。「親指が育っ ていない」「体幹が整っていない」などというところに行き着くんだということが,改めてよくわかりました。
大変ですが,コツコツやっていくしかないんですよね。やはりコツコツ積み重ねて,今の取り組みも,いい形で皆さんと共有できたらいいと思います。
質疑応答
Q. バランスボールは一日どれくらい乗っているんですか?
A. パソコンを見ている時は,ほぼずっとです。,パソコンをするのはだいたいご褒美の時間なので,喜んで座っています。
Q. ほめるときのポイントは?
褒め方としては,抽象的な言葉ではなく,具体的に,どこがどのように,ということを言います。例えば,「お尻がきちんと後ろに下がってえらいね」とか,左手が少しずれていたとしても,「じーくん,前は左手ぜんぜん置けなかったのに,すごいね!でももう少しここに置いてみようか」など,具体的に「どうするのが僕はえらいのか」「どうするとママから褒められるのか」―望ましい姿をしたからママは褒めてくれるんだな,ということがわかるように,賞賛・絶賛しているつもりです。
すぐ手が出てしまう息子が、自分で考えて気持ちを伝えられるようになった
2013年11月28日 木曜日 / カテゴリ:家庭の療育体験談
お子様の紹介
息子は現在小学校の個別支援学級に通う6年です。今日は主に,「知覚」と「判断」に注目してご紹介します。しっかり見て,情報を処理させるということに取り組んできました。1年前の息子の様子
一年前のJ☆sKepsTMは2.6点。視点が定まらず,視覚的な情報を得ることが苦手でした。また聞き取った言葉を頭に留め置くことが苦手で,情報が処理しきれず,手が出てしまうこともありました。 たすくの先生たちと「指示理解・セルフマネージメント・注視物の選択に注目しよう」と決め、必要なときに必要な情報に注目することができるように視覚機能を高めることにトライしてきました。
J☆sKepsTM2.6~3.3点になって,静態的システムから流動的システムのほうに移行しますが,実際は,学校生活の中で変更なども多く,常に流動的な環境にいます。
取り組む機能的な目標は,J☆sKepsTMの点数から,「三種の神器」「アカデミック」は1st~2nd,「生活スキル」「インディペンデント」「社会性」は1stに取り組みました。
「知覚(Perception)」では,視点が定まらず,視覚的な情報が得られないので,言葉が頭に留まらない。そのため聴覚と視覚から得た情報をコンビネーションさせることが難しくて,正しい判断ができません。それで心的処理ができないので,防衛反応として「攻撃してしまえ」と判断して,手が出てしまうことがあります。
手を出してしまったことで,相手も嫌な気持ちになりますし,息子自身も「たたいてしまった…」と落ち込んで傷ついてしま う。そんな風に,サイクルが正しく回らないという状態でした。
特に学習の中で見られたのは,新しい問題とか,足し算で少しパターンを変えて出題すると,しっかりと「見る」ことができないので,ぱっと断片的に目に入った情報しか取れず,さらに情報を留め置くことができないので,すぐに「やだ」と拒否をしたり,投げだしてしまうことがよくありました。
療育の実際(知覚)
実際に知覚(Perception)で取り組んだのは,情報を入力しやすくするために,視点を定める練習です。
<教材>
1.バランスボール
2.バランスディスク
センター南教室ができてからは,週に2~3回身体作りに取り組み,バランスディスクは家での宿題でも取り組みました。
バランスボール
昨年のアセスメントのときは,正面にいる松永先生を見続けることも,姿勢の保持も難しかったです。 姿勢の保持ができるようになったら,ボールに座って,上下にジャンプしながら,静止した対象物を見続けることに取り組みました。
<ポイント>
◎今やること以外の刺激をなくす
◎「○○を見て(ex.お母さんの目を見て)」と望ましい目標をあらかじめ伝えてから取り組む
◎できていることをフィードバック(ex.足を閉じている,口を閉じているなど)
バランスディスク
上の写真は一年前です。この時は,身体をひねることも難しかったのですが,後ろから腰を支えてもらうことで,視点を定めることができました。
現在の様子です。トーマスが好きなので,トーマスのシールを母の指先に貼って,「これを見てね」と言うことで,視点を定めることができています。
療育の実際(判断)
次に「Judgment・Programming(判断の練習)」についてですが,情報に注目することと並行して,情報を頭に留めおくことの練習に取り組みました。
<教材>
1.暗算
2.ブログ
暗算
暗算は,ワーキング・メモリに配慮し,音韻ループのみの問題と,視空間メモ+音韻ループの問題に分けて取り組みました。
【例】
「15+2」と「34+2」という問題で,どちらも同じ「2桁+1桁」の問題ですが,「34+2」のほうを何度も聞き返してくることが多かったです。
「15+2」は「じゅう・ご・たす・に」と4音です。これだと音韻のみでできたのですが,「34+2」になると,「さん・じゅう・よん・ たす・ に」で全部で5音の問題になります。これだとちょっと難しかったり確実ではなかったりしたので,やはり何度も聞き返してきました。
次に,2桁+2桁の問題で,「34+25」になると,全部で7音の足し算になり,これは音韻ループだけでは難しくて,視空間メモがあると解くことができました。
これで情報を留め置ける限界がわかったので,5音の足し算からスタートして取り組んできました。
同じ5音でも,「20+15(に・じゅう・たす・じゅう・ご)」という2音+2音の場合と,「35+4(さん・じゅう・ご・たす・よん)」の3音+1音,「2+36(に・たす・さん・じゅう・ろく)」の1音+3音とパターンがあり,パターンを変えると切り替えが難しかったので,2音+2音ならそれを続けて,次に3音+1音,1音+3音と出題し,最終的には全てのパターンを取り混ぜて計算をしていきました。
ここでのポイントは,まず出題の際の注意喚起です。
目が合ったときに問題を言う,もしくは,息子のほうから「いいよ」と合図をくれたとき,もしくはこちらの方から「いい?」と確認をして,しっかり聞く態勢になってから問題を伝えるということに注意しました。
音韻のみの暗算が難しいのは,指示が聞き取れても計算ができない場合と,式自体が留め置けない場合があります。
「34+25」のときには,『34+なに?』とか,『34+15?』と,聞き返してきて,後ろの数を留め置くことが難しかったです。
その時は,カードを見せて,自分で『34+25は?』と読み,一旦カードを伏せるんですが,答えが出ると,『確認するよ』とカードを見せて,『34+25は59』と,式と答えを必ず読ませるようにしました。
昨年と比べると,式を留め置けるようになりましたし,先生のほうもしっかりと見るようになりました。
ブログ
次に取り組んだのはブログです。ブログはまず単語の入力から始めました。イラストがあり,その下にアルファベット,その下に仮名を書いたものを使いました。
最初は留め置く時間を短くしてあげる配慮と,眼球運動で目をキョロキョロさせて情報を得ることがとても難しいので,目の動きにも配慮して,このときはパソコンではなく,入力する画面と,キーボードが一つの画面上にあるタブレット端末(ipad)を使って入力を進めていきました。
次に,2~3語文ですが,これもipadを利用して,まず自分で文を読ませて,さらにつぶやきながら入力することを意識させました。
アルファベットでの入力もだいぶ慣れてきたと思いますし,留め置く時間もすこしずつ長くなって,それに伴って目の動きも少し改善してきたので,今年に入ってから,パソコンでのブログの入力を始めました。
内容については,ブログを書く直前のことしか書かないことが多いので,「学校のこと・家のこと」など簡単な選択肢を見せて,そこから選んで内容を書くようにしていました。そしてブログを始めて半年以上経ち,最近は「今日これ書く!」「この写真使いたい」など自分から提案してくれることもあります。
入力に際しては,療育でいただいたフォーマット(いつ・誰が・どこで・どうした)を利用して下書きをさせていますが,これを直接入力するのは難しいので,私のほうで,文節ごとに区切って,わかりやすくなるよう清書をしています。それをスラッシュごとに読み上げ,留め置いて,入力し,最後に見本と同じように打ち込めたか確認します。
このようなスモールステップで留め置く量を増やしていきました。
指導してきた結果、今は・・・
今は,暗算のほうは,2桁+2桁で繰り上がりが2回ある計算に取り組んでいます。かなり難しいです。視空間メモが活用できなかったときには音韻ループが頭の中で消えてしまうので,視空間メモと音韻ループのバランスを整えるために,式を聞いて,それを筆算で書いて,解くことに取り組んでいます。
ブログでは,文節ごとにスラッシュを入れて,留めおいて入力することを続けています。
指導してきた結果、
・人や物によく注目できるようになりました。
・困った時,少し考えて行動するようになってきました。
(電車に乗り遅れたら,次の電車に乗ろう!と切り替えられるようになったり,電車賃が足りなくなったときに,自分から「歩いて行くよ」と決めたり)
・嫌なことがあった時に,とっさに手がでずに,考えることができるようになってきました。
(『叩いたら,痛い?』→『うん,痛いよ』と聞くと→拳を下げる)
【現在のPerception first cycle (知覚サイクル)】
情報が頭に留まり,注目できるようになってきた
↓
嫌なことがあっても,冷静に判断できるようになってきた
「叩くと痛いから,叩かずに言葉で返そう」
↓
「待って」「やめてよ」と言える
↓
笑顔で分かり合える
というサイクルがうまく回るようになり,それが社会性にもつながって,伸びてきたと感じます。
これまで療育でやってきたことに加えて,センター南教室が近くにできたことで,この1年本当によく通いました。その取り組みのおかげもあったと思うのですけど,J☆sKepの点数も思ったよりも伸びて,生活の中でも分かり合えることがとても増えてきました。
ただ,状況によっては冷静には判断できないこともありますので,これからは,あふれた時や,怒りをどうコントロールするかが課題になるので,これからもそれをふまえて,スモールステップでがんばっていきたいと思います。
質疑応答
Q. 身体の改善とともに,情報の留め置きや,「見て」に応える時間もだんだん長くなってきたと思いますが,身体づくりと,「留め置く」サイクルと,どちらを重点的にやってこられましたか?
A. どちらも並行してやってきました。身体づくりをしないと問題を見れないし,どちらかを重点的に,ということでは,できなかったと思います。
Q. おうちで身体づくりや勉強をする際,一日のノルマを決めていますか?
A. 時間ではなく、問題数で決めています。問題の難しさによって,30分だったり1時間だったりするので,「プリント何枚」という決め方です。ブログは毎日書こうとしています。