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たすくからのお知らせ

重度障がい児でも個にあった指導を毎日続けていくことで, 出来ることを増やせる

2013年11月28日 木曜日 / カテゴリ:家庭の療育体験談

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お子様の紹介

2012年5月よりたすくに通っております,都内特別支援学校に通う小学5年生です。

うちの子は出産トラブルがあり,身体に麻痺があります。その為、彼の持つ困難さの原因は,麻痺と発達障害の境界線がわかりません。

  麻痺由来の場合には,動かしたくても動かない,頑張っても出来ないということも考えられるので,何を始めるにも,「超」スモールステップで取り組みました。

  今回は,その中の「はさみ」について,1回切りが出来るようになった6歳以降をご紹介したいと思います。

システム理論

スライド_たつきくん

J☆sKepsTMが1.7点なので,静態的システムの中で取り組んでいます。ちょっとした変化で不安に陥りやすいので,学びやすいように丁寧に環境を整えて指導しています。

彼が取り組む機能的な目標

J☆sKepsTM 2点以下の三種の神器,コミュニケーション・スケジュール・タスクオーガナイゼーションが機能的な目標です。

Perception first cycle(知覚サイクル)

スライド_たつきくん

Perception first cycleの中でも,まず「見ること」が困難です。両眼視が未だ不十分です。見る・見続ける課題として,はさみはかなり有効かつ,指導する側から見ても判りやすい教材でした。
1. 線を見る,見続ける(Perception)
2. 線の通りに切ろう!(運動企画)
3. 実際に切る(Action)
4. うまく切れた(または,切れなかった)
・・・というように,はさみを握ると紙が切れる→即時フィードバックが得られる→結果も目に見える・ほめられる。グルグルとサイクルしていきます。最初の「見る」さえうまくいけば,です。

たすくに通う前

スライド_たつきくん

写真 左【2009年(6歳)】
  過敏のため,なるべく触りたくないというふうなはさみの持ち方です。
写真 右【2011年(8歳)】
  はさみの持ち手は少し良くなってますが,紙をしっかり持てていません。

  机上課題としての指導開始はこの頃からです。家庭で自己流で取り組んでいました。

折り紙を半分に切って,マジックで線を引き,線上を切れるかを見ましたが,脇が開いて背中が丸まっているために,はさみを横に構えるため,縦方向に切ることが出来ませんでした。運動面の困難さも影響しているように見えました。

療育の実際

スライド_たつきくん

2012年5月からたすくに通い始めましたが,そこからようやく指導のポイントが見えてきました。

まず机と椅子の高さが合っているか?足はしっかり床もしくは足置きに置いているか?手の位置を机上に固定し,安定した形を保って作業することが大事だと教わりました。三種の神器のタスクオーガナイゼーションの視点です。当時,よく見ようとすると手の位置が高くなり,その結果,右肘が前方に出て手首を曲げ,左肘は机から落ちていました。姿勢が斜めに崩れ,猫背になることで,視線も中心を見れずに右目だけで焦点をあてて見ていました。両目でよく見るためにも(←Perceptionです),姿勢を正すことは療育の基本,スタートラインだと思いました。

スライド_たつきくん

  また,正しい姿勢を保持するための体幹のトレーニングも学びの基地や,自宅でも実践しています。身体の中心軸を意識する運動や,バランス運動の他,普段も,リュックの荷物を重くして,しっかり足の裏を使って歩く等,机上課題を成立させるためには,身体作りの視点もなければ始まらないということを教えていただきました。

スライド_たつきくん

その他にも,照明や気温,湿度,衣服,周囲が静か等,環境にも気を配りました。   切る時にハサミを倒しがちなので,本人の目線を追って見ると,はさみの影に重なって切り取り線が見えづらくなっていました。手元になるべく影が出ないように照明の当て方を工夫しました。

  気温や湿度は,ハサミの課題に限らないことですが,手が汗ばんでしまうと,はさみが持ちづらくなったりしますし,そうでなくても暑いと集中力が低下するので,室内の温度・湿度にも気を使いました。

  夏場は特に体力の消耗が激しくなります。学校から帰ってきて疲れていないか等,本人から「今日は疲れています」と訴えることが出来ないので,体調面を観察し考慮したスケジュールに変えることもしていました。

  衣服も,半袖は問題ないですが,長袖の時は袖周りにボタンや飾りがついていたり,袖が長くて手首より下がってきたりすると,やはり集中できないので,動きやすく作業しやすい衣服かどうかもチェックしていました。

周囲が静かというのは,紙を切る際に,音のフィードバック(ジョキジョキ)を得ることを考慮したものです。他にも,目移りするような気になる音やものは出来るだけ隠すようにしました。

はさみのカスタマイズ

スライド_たつきくん

はさみは「こどもチャレンジ」のものを使用してます。持つところが太めで,材質の感触も冷たくなく固すぎず,ちょうど良いと思いました。ばねばさみも,持った感じはけっこう良かったものの,刃先のほうにガードがついていて,視覚的にそこが気になってしまいました。

  持ち方に関しては,親指が入りすぎていたので,入り過ぎないよう(親指の第一関節で止まるよう),はさみに加工を加えました。最初は包帯を巻きましたが,巻き終わりの糸が気になりすぎてダメでした。感触の好き嫌いもあって,包帯ではなく今はティッシュペーパーを巻いています。

  親指以外の指は中指と薬指を入れると,人差し指がどうしても突っ張ってしまい安定しないので,人差し指と中指を入れたほうがいいか,今はそこが試行錯誤している点です。先ほどグループワークの中で,手首の位置をまっすぐ意識して固定することで,比較的(指が開かずに)安定するんじゃないかというアドバイスをいただいたので,今後参考にしたいと思いました。

  あと,右側の写真は,紙を長めに切り進める時に,毎回途中からハサミが倒れて不安定になっていましたが,これも感覚から来る問題でした。肌の過敏が強いので,切れた紙が手の甲に触れるのが嫌で,その感触をよけようとして,手の構えが倒れたり,途中で切るのをやめてしまったりといったことが起きていました。自分でうまく切れ端をよける方法を身につけるなど,この部分も現在,試行錯誤中です。

出来るようになったこと

たすくで療育を受けて1年経ちました。はさみを使うとき、脇を締めて,背筋を伸ばして構えられるようになりました。 姿勢が整い,手を正面に置くことで視線が定まり,作業しやすい体勢が取れるようになっています。

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  自己流で指導している時は,こういった知識がなく,物体(objects)があり、実際の運動(action)をさせることしか思いつきませんでしたが,actionするにも,その前に「正しく対象物を捉える,見る」が出来なければ,その後の判断(judgment)も運動企画も出来ないわけで,自分で考えて動くようにはなっていきません。

 将来,彼が自分で考えて動けるようになるためにも,このPerception firstcycleをしっかりイメージして指導していきたいと思います。

療育で気づいた点と今後の課題

現在は静態的システムの中で,環境を整えて,できるだけ型の中で学習していますが,その中でも机上課題で学んだ内容を,生活の中に反映させるようにしています。例えば,はさみの場合は,焼きのりを切ってもらう,食品の袋を切ってもらうなどしてもらって,「ありがとう」というと,本人も嬉しそうだったり,得意げな顔をしていたりするので,モチベーションという意味でもそういった取り組みをしています。

 本人にやる気がないと始まらないので,やる気を引き出し,継続させるために好子の使い方など,モチベーションへの配慮や工夫が必要だと思いました。これも目下の課題となっています。先ほどグループワークの中でアイディアをいただきました。はさみの課題であれば,線を切って組み立てると風船のように遊べるというものを教えてもらいました。子どもですので,お勉強するだけが目的ではなく,「楽しみがその後にある課題」自体をモチベーションに繋げられるというのはいいアイデアだなと思いました。

  また、彼は,失敗すると落ち込みやすく,次を怖がってしまう特性もあります。自ら失敗から学ぶことは難しいので,出来る限り失敗体験をしなくて済むよう,新しい課題にチャレンジする時は,設定が適切かシュミレーションし,念入りに検証してから始め,課題の難度が高いと感じれば設定の見直しをしたり,支援の入れ方,減らし方,声かけのタイミング等を,毎回検証し続けています。

本人から「ここがいやだ」などの具体的訴えがないので,本人の目線になって同じものを見る,聞く,感じるなど,支援者には想像力も必要です。重度障害児の場合,コミュニケーションをとることが難しいために,ついつい支援者側で勝手に進めてしまったり,毎回過度にプロンプト(支援)して,出来たねーと,自分が満足して終わり!みたいなことがありがちですが,うまく表現や表出が出来ないだけで,本人にもプライドがありますし,こうしたいという気持ちもあるので,過度にプロンプトしてしまって,成長とか自主性の芽を摘むことにならないように…ということを常に心がけてこれからも,「楽しく」療育していこうと思います。

質疑応答

Q. 感覚過敏なのに,「見る・見続ける」課題で,はさみを取り上げたのですか?

A. はさみはとても「わかりやすい」教材だなと思ってです。ipodなどだと,自分の指で触って,何も介さずにフィードバックがあって,とてもわかりやすい。はさみも同様で,自分の操作「切る」ところが見える,切ったものが見える,切ったところに線が引いてあれば,上手に切れたかフィードバックが見える。そういう「わかりやすさ」が良かったです。

Q. 支援グッズはどのくらいの頻度で見直したり作り替えたりしていますか?

A. 彼の場合はわかりやすく「飽きる」んです。でも捨てることはありません。気に入ったおもちゃなどでも,一度飽きて,半年ぶりにもう一回出してみるとまた夢中になって遊ぶということもあります。それに継続してやっていないと,忘れた りできなくなったりするので,しばらく置いておいて,「またこれやってみる?」と出してくることもあります。

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