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たすく代表日記
2023.08.01カテゴリー:未分類
【代表ブログ】ASD教育の本「はじめに」を書いてみた
<出版間近>特別支援教育のエッセンス「自閉スペクトラム症教育の基本と実践」
https://www.keio-up.co.jp/np/search_result.do?ser_id=89
「はじめに」を書いてみた
本書は、「特別支援教育のエッセンス」シリーズ『自閉スペクトラム症教育の基本と実践』です。自閉スペクトラム症教育の基本を身に付けたい学生や教師のために、できる限り教育実践を踏まえて、「基本」に徹した内容になるように心掛けました。
まずは、本書があえて知的障害教育とは別で刊行されたことに深い意味を感じます。
「自閉スペクトラム症(ASD)への教育的支援は、知的障害のものとは違う」
現在では、この言葉を聞いて、当たり前と思う方も多いでしょう。しかし、我が国では20数年前まで、ASD教育は知的障害教育の1つのバリエーションとして行われてきました。
ASDの特性を考慮しない対応の結果、1990年代に本格的にASDの「強度行動障害特別処遇事業」が開始されました。この事業に着手せざるを得なかった背景に、ASDのある人たちの二次障害の深刻さがあり、この事業はASDの特性を考慮しない対応の不適切さを浮き彫りにしたものです。「強度行動障害」の現実は、周囲の大人が原因であり、「つくられた障害」、そして「避けられたかもしれない障害」です。
「強度行動障害」とは、激しい自傷(自らを傷つける行為)、他害(他者に暴力をふるう)、などにより、自の命や他人の命の危機に至るかもしれない行動がある障害です。家族や地域ではその対応が困難で、受け皿となった福祉の現場は必死の対応に迫られていました。支援者は真っ白な壁、鉄で作られたドア、監視カメラの中で、「強度行動障害」になってしまったASDのある人たちと向き合いました。
そんな時、TEACCHプログラムに代表される、「構造化」を中心とした方法論が我が国に伝えられました。現場を視覚的構造化で固め、ASDのある人たちの行動は、明らかに落ち着きました。真っ暗なトンネルの先に、確かな光が見えたのです。
私たちは必死に勉強しました。確かな理念と技術を関係文書から知ることができました。また、TEACCHに留学した方々がキーパーソンとなり、具体的、実践的なワークショップが実施されました。このようにして普及していったTEACCHは、正に我が国のASDのある人の支援に光明を与えてくれた存在であり、ASDの教科書となりました。
つまり、自閉スペクトラム症教育の特徴は、構造化(学校教育、教育環境をASDのある人たちが理解しやすい環境にする)です。構造化を教育の基本と捉え、ASDのある人が混乱しない教育環境を徹底して準備しましょう。そうすれば、ASDのある人たちの教育は本書に示すように「自立活動」を中心にしながら「各教科」に取り組むことができます。
「遊びの指導」などの各教科等を合わせた指導は、「創造性」や「自発性」を重視するため、ASDのある人たちのアンバランスな認知特性では混乱を生み出す可能性があります。無理に推し進めれば誤学習につながり、授業に参加できず教育の機会を失うことにつながります。
このように、我が国の自閉スペクトラム症教育はマイナスからのスタートだったのです。そのことを忘れないでチャレンジしましょう。
本書の著者の多くは、二次障害を防げなかった、行動障害を生じさせてしまった教育分野に、怒りをもって挑み続け、今でも当時の教訓を抱きながら教育分野をモニターしようと、そんな感覚で仕事をしている研究者です。今でも「強度行動障害」は生じます。自閉スペクトラム症教育の歴史は浅く、ちょっと油断をすれば、あなたが担当した児童生徒が深刻な「強度行動障害」に至るかもしれないことを常に想像しながら、本書を基点にして「自閉スペクトラム症教育」の難解さを学び、教育者としての道を歩んでいただきたいと考えています。
末筆ながら本書の出版に際して、関係する皆様、そして「先生の思いを自由に書いてほしい」と勇気づけてくれた慶應義塾出版会の故西岡利延子さんに心から感謝申し上げます。
2023年7月 齊藤宇開・肥後祥治・徳永豊